飼い主に捨てられるなどして、年間30万匹近い犬や猫が「殺処分」されるなか、愛媛県動物愛護センター(松山市)の職員の姿を描いた児童書「犬たちをおくる日」(金の星社)が反響を呼んでいる。同センターは命の大切さに気づいてもらおうと、殺処分の様子を原則公開している全国でも珍しい施設。ペットの最期に向き合う職員らの思いを聞いた。
センターは2002年12月に開設。1年間で、県内で収容された犬約3千匹、猫約3500匹が殺処分される。
写真(殺処分される直前の犬=松山市東川町、中田写す)
16年4月からは啓発活動として、希望者には面談などをしたうえで、殺処分を含めて施設のほとんどの様子を公開している。岩崎靖業務課長は「犬たちの思いを、覚悟のある人には直接感じてもらいたいのです」と話す。
「犬たちをおくる日」は、センターの職員が写真とともに実名で出てくる。捨てられた犬猫を処分機へ送らねばならない日常や、人と意思疎通できるようにしつけをし、1匹でも多くの命を救おうと奮闘する姿が描かれている。
身勝手な飼い主たちも登場する。「アホだから」と飼い犬を処分するよう持ち込んだのに、帰りに子犬を「譲ってくれ」と言った男性。処分場所である管理棟で、捨てた犬と記念写真を撮り、そのまま置いていった親子――。収容した犬猫のえさ代や、処分費用に年間500万円近い税金が投入されていることも紹介。職員が来場者に「捨てるのは簡単だが助けるのは簡単でない」と伝えている。
著者で動物愛護に関するノンフィクション作品を手がける今西乃子(のりこ)さん=千葉県市原市=も、取材に訪れた際に処分機のガス注入のボタンを押し、「その日、わたしが殺したのは30頭の成犬、7匹の子犬、11匹のねこであった」とつづっている。「死んでいく犬たちと、処分という仕事に立ち会う職員の気持ちに 寄り添いたかったから」という。
09年7月に出版、これまでに12版を重ね、約5万部を発行した。金の星社広報室によると、児童書だが大人からの反響も多いという。「小学校高学年~中学生向けの本としては、短期間で売り上げを伸ばしている」。センターには子どもだけでなく、大人からも「捨てられる命を減らす社会に」「知人に本を紹介した」といった感想が寄せられている。
二酸化炭素のボタン・・・10秒で次々と
センターを訪ねると、けたたましい鳴き声が管理棟から聞こえてきた。元の飼い主が現れなければ、多くの犬や猫たちは収容されてから5~7日で、幅1.35メートル、奥行き1.4メートル、高さ1.2メートルの金属製の箱の中で、二酸化炭素を充満させて殺処分される。
処分日は、毎週火、木曜。犬たちは毛布の上で身を寄せ合っていた。犬舎には暖房器具がない。「命が絶たれる最期までは、少しでもいい環境で」と職員が毛布を提案したという。シバイヌのような1匹が人なつこい様子で近づいてくる。岩崎さんは「元々は飼われていた犬が多いです」と厳しい表情を見せた。
午前9時半、処分が始まった。本の主人公となった職員、滝本伸生さん(43)が慎重に機械を操作し、15分ほどかけてゆっくりと犬を処分機に追い込む。二酸化炭素注入ボタンを押すと、10~15秒で次々と犬が倒れていった。
さきほど近寄ってきたイヌのなきがらをなでてみた。温かく、柔らかい。目はうっすらと開いていた。
滝本さんは言う。「センターの犬猫は人間の身勝手のためにただ死んでいく。殺処分数がゼロになるまで、この仕事を続けることが使命だと思うようになりました」。本のサブタイトル「この命、灰になるために生まれてきたんじゃない」は、自身の言葉だ。
しつけがうまくいかずに関係が悪化することが、ペットを手放す大きな原因となっている。このためセンターは、健康で人なつこい一部の子犬や子猫は譲渡用とし、引き取る人を対象に「しつけ方教室」にも力を入れている。
岩崎さんは「責任を持って命を預かることに、理解を深めることが大切。犬猫を殺す社会をつくったのは自分たち。一人一人に何ができるのかを考えてほしい」と語る。(中田絢子)
〈動物愛護センター〉
動物愛護の啓発活動や、捨てられた犬猫の処分を目的に自治体が設けている施設。保健所が同様の業務を行う自治体もある。殺処分では二酸化炭素を充満させる処分機を使用するところが多いが、山口県下関市のように、苦痛を軽減しようと吸入麻酔を使う場合もある。環境省動物愛護管理室によると、2008年度は全国で約28万匹が殺処分された。
犬たちをおくる日―この命、灰になるために生まれてきたんじゃない(ノンフィクション 知られざる世界)
著者:今西乃子・浜田 一男
出版社:金の星社