ペットブームが続く中、家族の一員として過ごしたペットを弔う「ペット葬」が話題となっている。ペットの“家族化”が進み、供養したいと考える人が増えているためで、特に埋葬する場所のない都市部での需要が高い。組合員や住民からの要望を受けて、JAがペット葬に参入。葬祭事業のノウハウを生かした丁寧な対応が好評だ。(三浦潤一)
7月のある日、JA東京中央セレモニーセンターペットメモリアル事業部の水島亮さんは、犬のペット葬を依頼した世田谷区の住民宅を訪問した。住宅街で煙が迷惑になることから、愛犬の遺体を預かり、依頼者と一緒に手を合わせた後、センター敷地内に戻って火葬。2時間後に拾骨した。依頼者は「以前頼んだ業者は骨の形が残らないほど焼かれていたが、きちんと残っていて拾骨できてよかった」と評価する。
JAは遺体の大きさによってバーナーの当て方や火を入れる時間などを微妙に調整し、小鳥でも骨格が分かるほど骨を残し、高い評価を得ている。
同センターがペット葬に着目したのは、JA子会社として葬祭事業に取り組む中で、組合員や地域住民から要望が多かったのがきっかけだ。人の葬儀が小規模化する一方で、ペット葬は継続的な需要の増加が見込めることから、同事業部を立ち上げ昨年4月にスタート。現在は、1カ月当たり約20件のペット葬を行うという。
一般的なペット葬は専門業者の火葬炉に持ち込むものが多いが、JAは固定火葬炉建設による住民感情に配慮し、移動火葬車を導入した。自宅か、同社や提携する寺の敷地に移動して火葬。人の葬儀と同様に悲しみに包まれ、号泣して話せなくなる人もいるほど。希望者には祭壇を用意、提携する霊園や寺院への納骨を紹介し、人間の葬儀と同様に丁寧な供養を提供する。
小鳥やハムスターなどの小動物から大型犬までほとんどのペットに対応し、料金は体重に応じ1万6000~4万2000円。これまで250件の依頼があり、7割が犬で3割が猫だった。ペット葬をきっかけに、人の葬儀の依頼もあるという。
9月23日にはこれまでの利用者を対象に、ペット合同供養祭を開いた。丹野浩成社長は「ペットは家族の一員。丁寧に弔い、死別の悲しみをサポートしたい」と話す。
栃木県のJA足利も組合員の要望を受け、今年5月にペット葬を始めた。もともと火葬場所や供養してもらえる寺を紹介して対応していたが、組合員や地域住民のため1年前から検討。持ち込むのが大変な高齢者の負担を考えて、移動火葬車を導入した。
車は中古車にし、導入費用を310万円に抑えた。自宅に出向いて2時間程度かけて火葬した後、骨つぼに入れて提供。献花や線香を上げる時間を設け、JA職員も手を合わせる。位牌(いはい)など仏具やメモリアルグッズもそろえる。これまで地域の幅広い世代から13件の依頼があった。JA広報誌や新聞の折り込みちらしで周知し、組合員以外からの問い合わせも多いという。
利用者からは「来てくれて目の前で火葬してくれよかった」「葬祭事業をやってきたJAだから安心感がある」と好評だ。JA典礼課の田村誠課長は「農村でも、埋めたペットが野生鳥獣に掘り起こされる危険などから需要がある」と指摘する。
ペットフード協会によると、2017年度の犬と猫の推計飼育頭数は1844万頭で、猫は横ばい、犬は減少傾向にある。ただ、70代の飼育率は維持しており、特にシニア世代で小型犬や猫の家族化が進んでいる。そのためペット葬需要が高まっており、10年度の内閣府調査では犬や猫を飼っている人で「ペット葬儀社に頼みたい」と答えた人が全国で62%、東京都で68%に達した。