日本経済新聞 2018/3/21 22:30
事件捜査に貢献した警察犬を供養する警視庁の慰霊祭が21日、東京都板橋区のペット霊園「東京家畜博愛院」であった。同院に警察犬をまつる慰霊碑が建立されて50年になる。きっかけは警察犬の能力を世に知らしめた1頭のシェパードと、その死を悼んだある少年の思いだった。
慰霊祭は毎年春と秋の彼岸に開かれる。この日は警視庁の鑑識課員ら37人が参列。約10日前に死んだ1頭を含む犬たちが埋葬された墓と慰霊碑に生花と線香を供え、生前の活躍をしのんだ。
この慰霊碑の由来をたどると、あるシェパードにたどり着く。同庁が第2次大戦で中断していた警察犬の飼育を1956年に再開した直後に採用されたアレックス号だ。
実力を示したのが57年に起きた強盗事件。遺留品の手袋の臭いから容疑者を特定し、事件を解決に導いた。同庁によると、当時の警察犬は主に広報活動に使われていた。まだ成功例が少なかった「臭気選別」で成果を出したアレックス号は、大いに名を上げたという。
ただ、その頃は警察犬のための墓地がなかった。62年にアレックス号の死が報じられた時、それをふびんに感じた少年がいた。当時の東京家畜博愛院の経営者の次男で中学1年だった関政美さん(68)だ。「動物好きで犬も何頭か飼っていたから、アレックス号をかわいそうに思った」
父親に「墓を作ってあげて」と頼み、同院内に仮の墓標を立てて生花を供えたところ、話題になった。やがて話は警視庁に伝わり、感激した秦野章・警視総監(後に法相)が正式な慰霊碑の建立を部下に指示。68年7月に碑が完成した。脇に建つ墓誌にはアレックス号の名も刻まれた。
それから半世紀。同院に合祀(ごうし)された警察犬は250頭に達した。同院会長で関さんの兄、宏美さん(70)は「警察犬の遺骨も慰霊碑も大切にお預かりしていきたい」と話している。